90年代の音楽ライフに革命をもたらした「MD(ミニディスク)」をあなたは覚えているだろうか【FMステーションのあった時代】

1992年、ソニーがMDディスク&プレーヤーを発売

 1992年、カセットに代わる存在として、新たな録音メディアが登場した、それがMDだった。

1992年、第1号MDプレーヤーのMZ-1、同時に発売されたマライヤ・キャリーのMDアルバム『EMOTIONS」。1993年発売の録音用MDディスク74分モデル 
©ソニーグループ株式会社      

 1982年にソニーが初のCD(コンパクトディスク)アルバム、ビリー・ジョエルの『ニューヨーク52番街』を発売して以来、アナログ音源比でよりノイズがなく、クリアな音質のデジタル音源(CD)は、アナログ音源(レコード)に代わる存在として、徐々に勢力を拡大していく。4年後の1986年には生産枚数が年間4500万枚に達し、レコードを追い抜いた。徐々にデジタル音源が急速に普及するに連れて、その音源を録音して楽しむメディア変革が求められた。つまり、カセットテープのようなアナログへの変換録音ではなく、デジタル音源をデジタルのまま録音できるメディアが求められるようになっていった。そんな時代に満を持して登場したのがMD(ミニディスク)だったのだ。

 MDとは、ソニーが開発発売したデジタルオーディオの光学ディスクの録音メディアで、ディスクのサイズは直径64㎜、厚さ1.2㎜。カートリッジは縦×横68×72㎜、厚さ5㎜でコンパクト。録音時間はステレオ録音で発売当初60分、1993年に74分、1999年には80分タイプ(モノラル録音にすれば2倍の時間録音できた)が発売された。デジタル録音という特質に加えて、MDディスクはカセットテープよりも優れた点をいくつも持っていた。

カセットテープのデメリットを克服した革命的な録音メディアがMDだった

カラフルな色が多かった録音用MDディスク
1-傷やホコリに強く、容易に取り扱いができた

 MDはCDとは異なり、ディスクがむき出し状態ではなく。カートリッジの中に入っていた。そのため、盤ディスク本体に傷やホコリが付く心配がなく、音飛びや再生不能になるトラブルがなかった。カートリッジは頑丈で多少雑に扱っても大丈夫だった。もちろん、ディスクなのでカセットテープのように切れたり、デッキにテープが巻き込まれてしまい使用不可になるというトラブルもなく、信頼性と耐久性に優れていた。

2-簡単に曲の頭出しができる

 カセットテープの難点は曲の頭出しが難しく、聴きたいときに聴きたい曲がすぐに聴けないことだった。しかしMDはボタン操作ひとつで曲の頭出しが簡単にできた。

3-曲名を入力できた

 ボタン操作で、曲名を入力でき、MDプレーヤーで再生する際には、プレーヤーのデジタル画面に曲名が表示された。

4-音が劣化しない

 デジタル音源のため、何度聴いても、データ(音)が劣化する恐れはなく、また同じMDソフトに重ね撮りを繰り返しても当初の高い音質が維持できた。

5―曲の並び替えができる

 カセットテープの場合、一度録音すると曲の並び替えは不可能。しかしMDは入れ替えの編集が容易にできた。録音している曲の中から、聴かない曲のみを消去することも簡単だった。

 このようなメリットがあったことと、ソニーがJUDY AND MARY やCHARA など自社契約アーティストをフィーチャーしたCMを、若者に人気があったテレビ番組やラジオ番組、雑誌で大々的に行い、若者を中心にMDは爆発的人気になっていった。雑誌『FM STATION』の読者もこの時期に、録音メディアをカセットテープからMDに変えたという人が多いのではないだろうか。

MDプレーヤーはどんどん進化し、使い勝手がパワーアップ!カーオーディオにも搭載

1992年発売のZS-M1。ラジオとMDプレーヤーが合体したモデル。
©ソニーグループ株式会社
1993年に発売されたMZ-E2。ウォークマン並みの小ささになった再生専用モデル。
©ソニーグループ株式会社

 MDはウォークマン同様、屋外で聴けることが大きな売りだったので、ソニーはディスクの発売と同時に専用のポータブルプレーヤーの発売も行っている。初代となるのはMZ-1(1992年)だ。価格は7万9800円と決して手に入れやすい価格ではなかったが、再生、録音、文字入力、簡単頭出しといったMDを楽しむための機能は十分だった。ディスクが本体にスーッと入っていく感覚も珍しく、刺激的だった。

 その後もラジオと一体化したZS-M1 (1992年)やより小型化を目指したMZ-E2(1993年)、ジョグダイヤルがついて文字入力など編集作業が楽になったMZ-R3(1995年)、CDプレーヤーとのコンポシステムCMT-M1(1995年)、48時間連続再生を可能にしたMZ-E80 (1999年)などがソニーから登場し、日本ビクターやシャープなどの音響機器を扱う家電メーカーからもさまざまな機種が発売された。1995年には業界全隊のMDのハードの国内販売台数は100万台に達している。

 必然ながら、カーオーディオにも搭載され、純正オーディオにも採用されるのは当然ともなる時代が到来した。

1995年発売のMZ-R3 。右サイドの円形部分がジョグダイヤルだ。
©ソニーグループ株式会社
1999年発売のMZ-E80。48時間もの長時間再生が可能だった。
©ソニーグループ株式会社

2000年代に入ってすぐMD時代が終焉したのはなぜか?忍び寄るアップルの影…

 しかしこのMDの隆盛は2000年代から陰りを見せ始める。その理由は、2001年に発売されたアップルのiPod などのMP3音源を使用したデジタルオーディオプレーヤーの出現だ。iPod 第1世代の容量は5GB、「ポケットに1000曲」が発売当時のキャッチフレーズだった。MDはディスク1枚に最長80分、音質が落ちるLP4で録音しても320分まで。1曲3分と考えても106曲しか録音できない。1000曲となると、9枚ほどのディスクに相当する。それがiPodならプレーヤー1台で済んでしまうのだ。これではMDが太刀打ちするのは難しい。

 さらにアップルは2004年に「Hello iPod. Goodbye MD. 」のキャッチフレーズでiPod の広告展開を行い、MDの対場を追い込んでいく。徐々に生産量は減っていき、2013年にソニーは出荷終了を行った。いまや家電店でMDプレーヤーを見るチャンスはない。1990年代、雑誌『FM STATION』を読みながら一生懸命に編集して作ったオリジナルMDディスクは、いまやめったに再生されることもなく、ひっそりと保管されているに違いない。

  1980年代の若者にとって、屋外で音楽を聴くツールはカセットテープとウォークマンに代表されるポータブルカセットプレーヤー。そして1990年代の若者にはMDディスクとポータブルMDプレーヤーが主流だった。現在カセットテープやカセットプレーヤーは昭和レトロブームの影響もあり、“エモい”存在として注目を集め、専門ショップも賑わっている。1990年代の若者生活を華やかに彩り、さまざまな思い出とともにあったMDは、今後再注目を集める日は来るのだろうか……。