トレンディドラマの代名詞「フジの月9」が生み出した数々のヒット曲たち【FMステーションのあった時代】

1988年1月、画期的なテレビドラマがスタートした。フジテレビで月曜日の夜9時から放映の『君の瞳をタイホする!』だ。

 東京・渋谷の道玄坂警察署・刑事課に勤務する陣内孝則、三上博史、柳葉敏郎、浅野温子の4人が繰り広げるラブコメディ。登場人物の都会でのオシャレなライフスタイル、ファッションも流行の最先端、刑事ドラマなのにポップで明るい展開、ライトな恋愛関係……。当時の若者を魅了するポイントが満載だった。

 どこか非現実とも思える世界は、だからこそとてもまぶしく輝き、憧れを抱かせてくれたのだ。このドラマは、バブル期のトレンディドラマの地位を確立したといわれている作品だった。

トレンディドラマのヒット曲第1号は『You Were Mine』

このドラマをプロデュースした山田良明さんは、ある雑誌インタビューで「どういう要素を取り入れれば、女性に受け入れられるかを研究し、オシャレなラブコメディを作ろうと方向性を決めた」と語っている。このドラマは初回から視聴率17.3%と好調、最終回は21.4%の高い数字をたたき出した。それに伴い流れる主題歌も大ヒットとなった。久保田利伸が歌う『You Were Mine』はオリコンチャートで第3位となり、1988年の『第30回日本レコード大賞』の金賞を受賞している。

このドラマ以降、フジテレビ月9のトレンディドラマは高視聴率を上げ、数多くのヒット曲を生み、「主題歌=ヒット曲」といわれるようになった。主なドラマ&主題歌を紹介しよう。

1989年7月~1991年1月のトレンデイドラマ・ヒット曲

●1989年7月『同・級・生』主題歌:『GLORIA』ZIGGY

広告代理店に勤める鴨居透(緒方直人)と学生時代の同級生・名取ちなみ(安田成美)を中心に繰り広げられる恋愛ドラマ。『ビッグコミックスピリッツ』に連載されていた柴門ふみの漫画が原作。広告代理店勤務が主人公というのは、いかにもCM業界が華やかで憧れの業界だったバブル期ならではの設定だ。脚本はのちに数々のヒット作を連発することになる坂元裕二で、彼の連続ドラマ脚本デビュー作となっている。視聴率は、平均14.4%、最終話20.8%。

主題歌は派手なビジュアルとワイルドな演奏で人気があるロックバンドZIGGYが手掛けた。約32.9万枚を売り上げ、オリコン年間チャートでは19位を記録しいている。ZIGGYにとって最大のヒット曲になった。ミュージシャンにこの曲のファンが多く、のちにつるの剛士、EXILE TAKAHIROなどがカバーしている。

●1989年10月『愛しあってるかい!』主題歌『学園天国』小泉今日子

東京・原宿にある男子高と女子高を舞台に、先生、生徒たちの学園生活を描いたラブコメディ作品だ。脚本は野島伸司、主役は男子高教師・日色一平(陣内孝則)と女子高教師・椎名吹雪(小泉今日子)。一平の掛け声「愛しあってるか~い」が流行語になった。生徒役としてブレイク前の田中律子、和久井映見が出演していた。視聴率は平均22.6%、最終話は26.6%。

主題歌になったのは、小泉今日子が歌う『学園天国』。1974年にリリースされ、105万枚の大ヒットになったフインガー5の4枚目シングルのカバーだ。バックの演奏は野村義男、C-C-Bの渡辺秀樹らが務め、小泉今日子の明るく元気の歌声が話題となり、50万枚を売り上げた。オリコンの週間チャートでは3位を記録した。高校野球の応援で演奏する学校が多く、現在では高校野球応援歌の定番曲になっている。

●1990年1月『世界で一番君が好き!You are my favorite in the world』主題歌『今すぐKiss Me』LINDBERG

大阪で働く恋人にふられたOL・向井華(浅野温子)が、東京へ戻る新幹線の中でサラリーマンの山村公次(三上博史)にビールをかけられ大喧嘩に。それをきっかけに二人は知り合いとなり、その後もなにかと喧嘩を繰り返すが、いつしかお互いを意識し始め、恋の物語が始まっていく。視聴率は平均22.0%、最終話は25.5.%。

主題歌は、ロックバンド・LINDBERGの『今すぐKiss Me』。番組のヒットと共に曲の人気も徐々に上がっていき、1990年3月にはオリコンチャーㇳの1位を獲得、1990年の年間チャートでも3位になっている。ドラマのオープニングタイトルでは、曲のタイトルのように主人公の2人がさまざまなシチュエーションでキスをするシーンが登場し、最終シーンでは、なんと大胆にも渋谷駅前のスクルンブル交差点の真ん中で、多くの観衆が見守る中、お互いが乗るクルマから身を乗り出しての濃厚なキスシーンが流れた。

●1991年1月『東京ラブストーリー』主題歌『ラブ・ストーリーは突然に』小田和正

東京の広告代理店で働く永尾完治(織田裕二)と同僚の赤名リカ(鈴木保奈美)の関係を中心に、東京で繰り広げられる若者たちの恋愛ストーリー。こちらも原作は『ビックコミックスピリッツ』に連載された柴門ふみの同名漫画だ。

 主なキャストは20代、スタッフ陣も30代前半と若く、原作から大きく改変したり(原作は完治目線だが、ドラマではリカ目線)、MYVのPVを意識した撮影を行ったりと台本や撮影方法には当時としては新しい試みが多数取り入れられていた。視聴率は平均22.9%。最終話32.3%を記録し、とくに若い女性に人気があり、当時、放映時間には繁華街から若い女性の人影が消えるといわれるほどだった。

主題歌は小田和正の『ラブ・ストーリーは突然に』。第4話の放送と同時に発売されたが、売れすぎで、2週間欠品になるほどだった。このドラマが放送される前は、主題歌がドラマ内で使われることがなかったが、本作では、重要な部分に「チュクチュクーン」のギター音から始まる『ラブ・ストーリーは突然に』が流れた。このことで視聴者に曲の印象が強く残り、ヒットの大きな理由になった。1991年のオリコン年間チャーㇳの1位になっている。

1991年7月~1996年4月のトレンデイドラマ・ヒット曲

●1991年7月『101回目のプロポーズ』主題歌『SAY YES』CHAGE&ASKA

交通事故で亡くなった婚約者が忘れられない矢吹薫(浅野温子)とさえない中年男・星野達郎(武田鉄矢)がお見合いを。「人を好きになって失うのが怖い」と消極的な薫に積極的にアプローチをする達郎、しだいに達郎の熱い気持ちにかたくなだった気持ちがやわらいでいき……。平均視聴率は23.6%で、最終回は36.7%と高視聴率を記録した。

主題歌はCHAGE&ASKAが歌う『SAY YES』。初登場でオリコンチャート1位となり、その後、13週連続1位の快挙を達成した。この曲のヒットに伴い、曲の内容のように「二人を別れさせないでほしい」という要望がフジテレビに数多く届き、ドラマの結末内容が曲に合わせ書き直されたといわれている。

 爆発的ヒットになったが、前々クールで放送された、『東京ラブスーリー』の主題歌「ラブ・ストーリーは突然に」の売り上げは超せず、1991年のオリコン年間チャーㇳでは第2位だった。しかし、翌年も売れ続けることで「ラブ・ストーリーは突然に」(約270万枚)の売り上げを抜き、約282万枚を記録した。

●1992年4月『素顔のままで』主題歌『君がいるだけで』米米CLUB

図書館司書の香坂優美子(安田成美)とミュージカルスターを目指す月島カンナ(中森明菜)。ひょんなことから同居生活を始めた。性格も育ちも正反対の二人が、お互い高めあいながら成長していく、女性同士の友情物語。

 脚本は当時の新鋭、北川悦吏子が務め、彼女にとっても大作家への第1歩になった。スタート時は、「中森明菜に演技ができるの?」と疑問視されていたが、自然体の演技が心に響くと話題になり、高い評価を得ている。視聴率は平均26.4%、最終話は31.9%を記録している。

主題歌は米米CLUBの『君がいるだけで』。もともとはバンドメンバー同士の結婚の祝福のために作られた。CDシングルがよく売れていた時代とはいえ、初動はオリコン調べによると当時歴代最高の92.5万枚という大記録を達成した。「たとえばー」で始まるこの曲。カールスモーキー石井があるアナウンサーが、テレビで“たとえば”という言葉をよく使っていたことから、「このフレーズがあったら誰もが聴きたくなるのでは」と思い使ったといわれている。

●1993年4月『ひとつ屋根の下』主題歌『サボテンの花<“ひとつ屋根の下”より>』財津和夫

両親の交通事故死をきっかけに生き別れになっている兄弟が、長男・柏木達也(江口洋介)の婚約報告をきっかけに再び共同生活を始めることになり、さまざまな困難や葛藤を乗り越え家族としての絆を深めていくホームドラマ。次男・雅也を演じた福山雅治はこの番組で知名度を上げ、役者としてのキャリアを築き上げていくことになる。

 視聴率は平均28.4%、最終話は35.9%。11話が記録した37.8%は1990年代の全民放ドラマの最高視聴率となっている。長男達也の口癖の「そこに愛はあるのかい」はその年の流行語になった。1997年4月にはパート2が制作され、こちらも視聴率は平均27.0%、最終話は34.1%となり、大ヒットとなった。

主題歌の『サボテンの花』は、もともと1975年に財津和夫がリーダーのチューリップの曲として発表された。ドラマにおいては、財津和夫がセルフカバーし、新録した『サボテンの花<“ひとつ屋根の下”より>』が使用されている。ドラマにように爆発的ヒットとまではならなかった(60万枚)が、チューリップの再評価につながり、1997年のパート2において、チューリップが再結成され、その際にレコーディングされたバージョンが主題歌に使用されている。

●1993年10月『あすなろ白書』主題歌『TRUE LOVE』藤井フミヤ

『同・級・生』『東京ラブストーリー』同様、こちらも柴門ふみが『ビッグコミックスピリッツ』に連載していた漫画が原作。若い男女の等身大の姿をリアルに描いた柴門ふみの漫画は、若者が視聴者の中心だった当時のトレンディデイドラマにおいて、最も適した素材だった。

 青教学院大学で知り合った5人の男女で結成した「あすなろ会」を舞台に、園田なるみ(石田光)、掛居保(筒井道隆)を中心にそれぞれの恋愛や人生を綴った物語。ポップなトレンディドラマが多かった当時において、友人の死、妊娠、LGBTといった内容を取り上げ、高い注目を集めた。視聴率は平均27.0%、最終話は31.9%だった。木村拓哉が演じる取手治がなるみを後ろから抱きしめるシーンが若い女性に大うけし、「あすなろ抱き」といわれ流行した。

 主題歌は藤井フミヤの「TRUE LOVE」 。ソロ第2作として発売された(チェッカーズ時代に1枚ソロシングルを出している)。バンド時代から作詞は手掛けていた藤井だが、作曲は本作が初めて。オリコンチャートは初登場1位を記録し、200万枚を超える大ヒットになった。

 この曲は現在、結婚式の定番曲となっており、本人自身もあるインタビューで「結婚式で何度、歌ったかわからない」と答えている。1995年のフジテレビのバラエティ『ハンマープライス』で、「藤井フミヤが結婚式で『TRUE LOVE』を歌ってくれる権」が番組史上初となる100万円超えで結婚式直前の女性に落札されている。

●1996年4月『ロングバケーション』主題歌『LA・LA・LA LOVE SONG』久保田利伸with Naomi Campbell

さえないピアニスト・瀬名秀俊(木村拓哉)の部屋に元ルームメイトの結婚相手(結婚式当日に失踪)のモデル・葉山南(山口智子)が、突然転がり込み始まる恋愛ドラマ。すでに人気俳優となっていた木村拓哉と山口智子の共演で、放送前から高い注目を集めることとなり、初回視聴率はいきなり30.6%を記録した。ピアノを習い始める男性が急増したといわれ、最終話の視聴率は36.7%だった。

  放送後も「ロンバケ」の愛称で親しまれ、1996年10月には総集編に新録を加えた『ロングバケーションスペシャル』が放送され、こちらも27.8%の高視聴率を記録している。

 主題歌は久保田利伸with Naomi Campbellの『LA・LA・LA LOVE SONG』。ブラックミュージックの第一人者、久保田利伸作だけあって、ソウルフルかつダンサブルな曲になっている。主な歌唱は久保田利伸が担当し、ナオミ・キャンベルは一部コーラスを担当した。オリコンの月間チャートで1位を、年間チャートは3位を記録し、約180万枚を売り上げる大ヒットになった。

 ヒット曲は歌いだしの最初のフレーズが印象的なものが多く、「まわれまわーれ メリーゴーランド」は番組や久保田利伸ファンはもちろん、多くの人たちに強く記憶されているだろう。当時、世界有数のトップモデルだったナオミ・キャンベルとの共演は、当時ニューヨーク在住だった久保田利伸とナオミ・キャンベルが同じマンションに住んでいて、エレベーターで対面した際に意気投合し、実現したといわれている。

当時の雑誌 『FM STATION』でも、これらの曲を歌ったミュージシャンを頻繁に取り上げていた。解説記事やインタビュー記事を読むことでさらに深く、そのミュージシャンついて知ることになり、音楽ライフをより充実させたという人も少なくなかっただろう。