『She』の大ヒットで知られるイギリスのレジェンド、エルヴィス・コステロが8年ぶり来日公演開催しライブレポートが公開
盟友スティーヴ・ナイーヴと共に『レッド・シューズ』『She』『アリソン』など数々のヒット曲を披露
エルヴィス・コステロ(Elvis Costello)は1977年、イギリスで『レス・ザン・ゼロ』でデビュー。当時盛んだったパンク&パブロックブームを支持する血気盛んな若者たちに受け、一躍人気アーティストに。その後はポール・マッカートニーと共作した『ヴェロニカ』(1989)や大ヒット映画『ノッティングヒルの恋人』の主題歌『She 』などが高く評価され、幅広い層に人気となり、現在では、イギリスを代表する実力派アーティストになっている。日本でも人気は高く、彼のアーカィブ本やファンブック、自伝など数多くの書籍も発売されている。
その彼の来日公演が2024年4月8日から全4公演でスタート。盟友スティーヴ・ナイーヴと2人でのパフォーマンスで行われ、8年ぶりのツアーとあってすべて公演がソールドアウトとなっている。
初日となった東京 すみだトリフォニー・ホールでのオフィシャルライブレポートとライブ写真が公開された。
「久しぶりだね、特別なショーにするよ」のあいさつで公演スタート
定刻を3分ほど過ぎたところでエルヴィス・コステロ、スティーヴ・ナイーヴが登場、「久しぶりだね、特別なショーにするよ」と挨拶したコステロがさっそく1曲目の『ホエン・アイ・ワズ・クルーエル No. 2』をプレイし始め、すみだトリフォニー・ホールを埋め尽くした観客の心を解きほぐしていく。
ヘヴィに響き渡るリズムマシン、エレキ・ギターを手にしたコステロがステージやや右手側、左手にはグランド・ピアノとエレクトリック・キーボード、曲により鍵盤ハーモニカを操るスティーヴ・ナイーヴが位置して座る。02年のアルバム『ホエン・アイ・ワズ・クルーエル』のタイトル・トラックだが、オリジナル以上にヘヴィなサウンドにアレンジされ、ズシンと迫ってくるし、ナイーヴは早速鍵盤ハーモニカを手に客席に降りてくる。
もう45年ほどありとあらゆるステージやレコーディングを共にしてきた二人だけに、何があっても、すべて対処できる自信がステージ上から溢れ出すし、伝説の78年初来日に始まり20回以上、来日しているコステロだけに日本にいかに熱心なファンがいるかもよくわかっているので余裕綽々だ。
続いて『トラスト』(81年)からの『ウォッチ・ユア・ステップ』、『キング・オブ・アメリカ』(86年)からの『ジャック・オブ・オール・パレーズ』といった比較的地味な曲や未発表の『Like Licorice on Your Tongue』が続き反応もおとなしめだったが、初期の大ヒット・アルバム『アームド・フォーセス』(79年)からのおなじみ『アクシデンツ・ウィル・ハプン』で大きな拍手がわく。もともとは畳み込んでいくようなテンポの良い曲ながら、ここでは大胆なアレンジが施され、しかもピアノだけをバックに歌いこまれる。と書くといかにも重そうだが、そうじゃなく曲に新しい滋味を加えていくといった趣で、それがスリリングに響いてくるのだ。さすがコステロ!
スペシャルズの『ゴースト・タウン』をカバー
そしてここからが前半のハイライトで『トラスト』からの『クラブランド』がプレイされ、それがスペシャルズのNo.1ヒット『ゴースト・タウン』へとつながる流れにびっくり。登場してきたスペシャルズを気に入りファースト・アルバムをプロデュース、2トーン・ブームを盛り上げたあの時代を振り返るようにキーボードがリーダー、ジェリー・ダマーズのフレーズを奏でる。と感傷に浸ってるとそれが、日本ではアニマルズで知られる『悲しき願い(Don't Let Me Be Misunderstood)』へつながる。『キング・オブ・アメリカ』に入っているが、あまりステージにかけられることがないので日本での人気を知ってのピックアップだろう。ここらが嬉しい。
そしてMCで日本といえばと、アラン・トゥーサンと来たときの思い出を語り、彼と作った名盤『ザ・リヴァース・イン・リヴァース』(06年)からの『アセンション・デイ』をアコースティック・ギター一本で披露(これもあまり取り上げられることのないレア曲)、同じくギターだけで人気の『ビヨンド・ビリーフ』をプレイし、さらに『ヘイ・クロックフェイス』(20年)からのタイトル曲や『ブルータル・ユース』(94年)からの『スティル・トゥー・スーン・トゥ・ノウ』などの珍しい曲が並び熱心なファンを喜ばせる。
代表曲『レッド・シューズ』を大幅にアレンジし披露
驚かされたのは次の『レッド・シューズ』。初期コステロの代表曲の一つだが、最近ではあまり取り上げていなかったこの曲を大幅にアレンジしテンポも変えて歌い込み、さんざん聞き慣れた曲がとても新鮮に響いてくる。やや重くなった空気を切り裂くようにデジタル・ビートとラップが絡む『ヘティ・オハラ・コンフィデンシャル』で、あっけに取られていると、次曲はもっとびっくり。なんと『オールモスト・ブルー』だ。昨年以前は20年近くやられていない曲で、名作『インペリアル・ベッドルーム』(82年)からの曲だが、その前作アルバム『オールモスト・ブルー』(81年)が、ナッシュヴィルでカントリー・ナンバーをカバーし当時かなり批判されたのを思い出す。
ここらから中盤(もう後半か)の私的ハイライトで、これまた珍しい『ノース』(03年)の『スティル』がじっくりと歌いこまれ、次の最初期のナンバー『ウォッチング・ザ・ディティクティヴス』へと続く。会場全体がかなり暗いブルーのトーンが包み込み、ドラマチックな空間を鍵盤ハーモニカとエレキ・ギター、リズムマシン、事前に入れておいた音とエフェクト処理なのかわからないがダブル・ヴォーカルにも聞こえる歌、それと対話するかの自由度の高いギターが響き渡る。もう本当に何千回も歌い、プレイしてきている曲だろうにこうして大胆にアレンジし、曲を活き活きとしたものする彼のアーティスト魂には、本当に熱くさせられた。
その興奮がさめる間もなくバート・バカラックとの共作盤『ペインテッド・フロム・メモリー』(98年)からの難曲『アイ・スティル・ハヴ・ザット・アザー・ガール』が歌われる。正~直なこと言えば『ゴッド・ギヴ・ミー・ストレングス』が聴きたかったが、ナイーヴの素晴らしいピアノもたっぷりと味わえるこれでも大満足。
そんな会場へのプレゼントのように続いて『She』がプレイされる。日本ではコステロといえばコレというほど人気の高い曲は映画『ノッティングヒルの恋人』の主題歌として使われたシャルル・アズナヴールの名曲。ここでは、ロンドンの名門 Royal College of Music(王立音楽大学)に通った才人ナイーヴのみごとなピアノをバックに、50年代風のヴォーカル・マイクで往年のポピュラー・シンガーのように歌い上げ感動が会場を包み込む。大拍手に送られステージ袖に引っ込むが、一瞬で再登場。アンコールに応えたということか(笑)。
最後は誰もが納得の『アリソン』で終演
平和への祈りを込め『コジャック・ヴァラエティ』(95年)で取り上げていたモーズ・アリスンの『エヴリバディーズ・クライング・マーシー』を渋くきめ、次が観客全員が大好きなニック・ロウ・ナンバー『ピース、ラヴ・アンド・アンダスタンディング』が始まり、この日の充実したステージを観客が称えるように手拍子が広がっていくが、それに応えてなんとセカンド・ヴァースはナイーヴがヴォーカルを取って喜ばせてくれる。これ以上はないピースフルな空気のなか最後の必殺『アリソン』が歌われ、全ファンが本当に来てよかったと幸福感に酔いしれた。
こんなアーティストと同時代を歩む満足感は本当に特別なものだ。すぐにでもジ・インポスターズとの来日を実現してほしい。
文:大鷹俊一
Photo: Yuki Kuroyanagi
ライブ概要
タイトル:ELVIS COSTELLO & STEVE NIEVE来日公演2024
日時:2024年4月8日
会場:東京 すみだトリフォニー・ホール
エルヴィス・コステロ プロフィール
1954年生まれ。77年3月にインディ・レーベルよりシングル『レス・ザン・ゼロ』でデビュー。その2か月後には、あの傑作『アリスン』がリリースされ、デビュー・アルバム『マイ・エイム・イズ・トゥルー』が大ヒットを記録。この後アトラクションズを結成、ツアーも積極的に開始。
78年11月には初来日を果たす。80年前後にレコード・ヒットを連発させて人気を高めたところで自ら音楽的な成長を求め、81年にカントリー・アルバムを制作する等、一時活動はスロー・ダウンする。
89年、ポール・マッカートニーと共作した『ヴェロニカ』がヒット。また、本流のアルバム作りと並行して弦楽四重奏ブロドスキー・クァルテットと共作したり、ジャズ・アーティストと共演したりと世界を広げていったが、その一つの頂点になったのが98年の傑作『ペインテッド・フロム・メモリー』だ。
99年にはジュリア・ロバーツ主演映画『ノッティングヒルの恋人』の主題歌となった『She』が大ヒット。そしてクラシックのレーベルから『ペインテッド~』の曲をビル・フリゼールがアレンジした『スウィーティスト・パンチ』とクラシック・シンガーとのコラボレーション・アルバムをリリース。
2002年、7年ぶりのソロ名義アルバム『ホエン・アイ・ワズ・クルーエル』をリリース。日本盤にはテレビ・ドラマの主題歌『スマイル』がボーナス・トラックとして収録された。秋には来日公演を行った。
その後もコンスタントにアルバムリリース&ライブを行い、好評をえている。
エルヴィス・コステロ 公式サイト
HP(日本): https://www.universal-music.co.jp/elvis-costello/
HP(海外): https://www.elviscostello.com/