1980年代の若者を牽引したFM情報誌『FM STATION』と共にあった鈴木英人氏による多彩なイラストレーション

 『FM STATION』を思い起こすアイコン、または大きなキーワードともいえるのが、鈴木英人氏によるイラストだろう。

美しい鮮やかな色使い、華やかなアメリカの雰囲気伝えてくれる風景、風や光を感じさせるタッチ、そのすべてがハイセンスでオシャレだった。そんな鈴木英人氏のイラストが数多く表紙を飾っていた。

 80年代半ば、中学生用英語の教科書『NEW HORIZON』(東京書籍)の表紙に鈴木英人氏のイラストが使われることがあった。教科書の表紙イラストと同じタッチだったことで、当時の10代が『FM STATION』を気軽に取ることになった理由の一つかもしれない。

アメリカ西海岸を彷彿とさせる情景が若者のココロを掴んだ

 山下達郎のアルバム「FOR YOU」(1982年)やシングルの「高気圧ガール」(1983年)のジャケットを描いていたのも大きかった。当時、山下達郎の曲は若者に大人気で、オシャレなカフェやブティックでBGMとして流れ、店内のインテイリアとしてこれらの作品を飾るお店も少なくなかった。当時の若者たちの憧れの文化は、アメリカ西海岸から発信されてくるものであり、それを育む西海岸の風景==パームツリー、青空、強い日差し、爽やかな風、きれいな海と波、おしゃれなビルボードなど==こそ、一度は行ってみたい世界だった。

 鈴木英人氏が描いた表紙のイラストの数々は、人気の高さから1984年に単独の画集「FM STATION ILLUSTRATED  鈴木英人 表紙作品集」として発売されている。

 ミュージシャンの曽我部恵一さん(1971年生まれ)は文庫本[『FMステーション』とエアチェックの80年代](恩藏茂、河出文庫)の後書で「何を差し置いても魅力だったのが、その大判の表紙に描かれた鈴木英人の絵。当時、鈴木英人の絵が放っていたとてつもない魅力を、現代の若い人に説明できるだろうか。(中略)問答無用にアメリカへの憧れを抱かせ、勝手なアメリカ像を描かせた」と綴っている。

”アノコロ”全部入り!にこだわった『FM STATION 8090』

 コンピレーションアルバム『FM STATION8090』シリーズ(avex infinity)をプロデュースしたDJ BLUEさんも、「英人さんのイラストが、”アノコロ”に不可欠なピースでした」と語っていた。

 鈴木英人氏のイラストは、雑誌『FM STATION』の記事を読み、番組表を確認しながら、FMラジオに流れる音楽を聴いていた、若かりしあの頃に一瞬で場面転換してくれるチカラを持っているのである。

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