ヒット曲は50代からが楽しい!『50代からの最新ヒット曲健康法 アラ還評論家のJポップ毎週チェック5年分』著者・スージー鈴木氏インタビュー

 音楽評論家・スージー鈴木氏の書籍『50代からの最新ヒット曲健康法 アラ還評論家のJポップ毎週チェック5年分』(彩流社)が好評発売中だ。

 本書は新聞『東京スポーツ』(以下、東スポ)の連載「オジサンに贈るスージー鈴木のヒット曲講座」(2015年〜)<*>から2021〜2025年分を1冊にまとめたもの。本書の成り立ちや、執筆を通じて感じる邦楽のトレンドの変化などについて、スージー鈴木氏に話を聞いた。

*「オジサンに贈るスージー鈴木のヒット曲講座」…最新ヒット曲を毎週1曲取り上げて、『東スポ』の読者である中高年男性層に解説する連載企画。前作にあたる『平成Jポップと令和歌謡』(彩流社/2021年)は2016〜2020年の記事を収録している。

若い音楽をどうやって書けばいいんだ!?

−−どういう経緯で「おじさんに贈るヒット曲講座」は始まったのでしょうか?

スージー鈴木:
 実は、担当編集者と会ったのは、十年前の打ち合わせのとき一回きりなんです。十年間連載が続いていますが、あまり深くは企画の意図とかを聞いていません。

 私は『東京スポーツ』『日刊ゲンダイ』『週刊実話』という“オヤジメディア三冠王”の連載を持っているのですけど、オヤジ メディア業界もやっぱり若い読者をつかみたいということで。と言っても、私の原稿を20代が読む感じはしないんですけれども(笑)。

 私よりちょっと若いオジサンにシフトしようと、プロレス、競馬、エロという『東スポ』の中に、米津玄師について語るコーナーができたんじゃないでしょうか。

−−今のヒット曲を解説する、というのはチャレンジングな企画ではないでしょうか。

スージー鈴木:
 それまでは古い音楽しか語ってなかったので、チャレンジングです。

 連載第一回はゲスの極み乙女。について書いたのですけれども、「どうやって書けばいいんだろう、若い音楽を?」って。ただ、途中から「オジサンに贈る」というタイトルだから、自分より読者が少し若いとしてもオジサン相手だということで気が楽になりました。

−−ヒット曲に疎いオジサンたちに興味を持たせるために工夫していることは。

スージー鈴木:
「この新しい音楽は、我々が聴いていた音楽で言うとアレに似ている」というように、新しさを語るときに古いことを持ち出すという方法論を見つけてからは、「これでいけばいいんだ」と思うようになりました。

 1回の文字数が700字ぐらいなので、何か一ネタと言いましょうか、ちょっと大喜利みたいな形で「この曲はこうだ」と、一問一答みたいな形で直感を重視して瞬発力で十年間やってきましたね。

 あと、『東スポ』なので、オッパイを見にきている人にもわかりやすいような表現を心がけていて、専門用語が出てくる比率は私の他の著書に比べても少ないと思います。

−−選曲は一任されているのですか。

スージー鈴木:
 はい。朝ドラとかが大好きでほっておくとドラマの主題歌の話ばかりなるので、努めて毎週「Billboard Japan Hot 100」を一応見ています。

 その中から気になる楽曲タイトルを動画サイトにコピー&ペーストします。最近は100%映像があるので、それを見て「あ、おもしろいじゃないか! 今週はこれで行こう」と判断しています。最近はアーティスト名の読み方もわからないのが多いですからね。

連載を続けるための3つのモットー

−−本書の冒頭で「無理しない」「推さない」「分析しない」を連載の姿勢に掲げていますね。

スージー鈴木:
 徹しているのは「無理しない」ということですね。例えば「米津玄師をいい」と言うのは、とてもメロディアスでとんでもなく新しい発想をしていて、歌もめちゃくちゃ上手くて聴いていてものすごく気持ちいいから。

 私は前職が理屈ばかりこねていたマーケティングプランナーだったので、「なぜこれが売れたのか」を分析的に語りたくなるし、オジサンは若ぶって「Vaundyのコンサート行っちゃったオレ」とかってプレゼンをしたくなります。でも、それをしだすともうイタイ(笑)。

 中にはかなり無理して書いている回もありますけど、基本的には自分が無理せず、「これ、いいじゃないか」と思った曲を書くという気楽さが、長続きの秘訣だと思います。

−−「推し活」がブームの現在に「推さない」と公言する理由は。

スージー鈴木:
 自分は誰も推していないのですが、「推さない」というのは、「一個のミュージシャンに凝り固まるのはつまらないですよ」という、どちらかといえばリスナーに向けたメッセージなんです。

 この業界、特定のミュージシャンに強いというのは“売り”になります。「ジミー・ペイジといえば渋谷陽一」みたいな構図はある程度はあったほうがいいと思いますが、私にはそういうミュージシャンが特に見当たりません。まあまあ、サザンオールスターズとか沢田研二は好きですけれども、決して本人に会いたいと思わないし、特定のミュージシャンとの密接な関係はどちらかというと拒否しているところがあります。

 「会ったら書きたいことも書けなくなるだろうな」とか面倒な気もするし、「推さない」という言葉には自分の書き手のスタンスも込めています。

令和のヒット曲と昭和歌謡との共通点

−−連載で「令和歌謡」という言葉を生み出しました。この言葉を用いる意図を聞かせていただけますか。

スージー鈴木:
 まず「令和歌謡」は「昭和歌謡」のシャレですね(笑)。前作の2016年から2020年は日本にサブスクリプションが普及して、曲が5分台から3分台ぐらいに短くなりました。

 さらに、不景気や自然災害の影響がありちょっと陰鬱で暗い曲が増えました。

 その象徴が2018年の米津玄師「Lemon」で、こういう曲はもうJポップじゃないんじゃないかと感じたんです。ここで仮想敵にしているJポップというのは、平成を席巻した、「メジャーキーで大サビまであるてんこ盛りの5〜7分の構成、歌詞は割りとポジティブでカラオケでみんなが熱唱するような音楽」を指します。

 「Lemon」はそういう曲とは違い、短くて泣けるようなしっとりとした情緒的な歌詞が歌謡曲っぽくて安全地帯を思い出す、ということを書きました。

 令和歌謡とは、「Lemon」やKING GNUの「白日」に昭和歌謡につながる音楽的な方向性を感じて作った造語ですね。ちょっと流行るかなと思ったのですけど、全然流行りませんでした(笑)。

 歌詞が内省的になる理由には、世相に加えて「聴き方の変化」も大きいと思います。平成の初期はみんなCDを買っていました。CDはイヤホンでも聞けますけど、コンポやラジカセのスピーカーから聴いていた人の比率が高かった。

 今やサブスクリプションをスピーカーで聴いている人なんてほぼいなくて、音楽がパーソナルな消費になっています。私も100%イヤホンで聴きます。

 空気を震わさずにスマホからイヤホンで音を聴くことが中心になっていることは、音楽的にも内向的にならざるを得ないと思うんです。

 現在、フェスとかライブが盛り上がっているのは、音楽のリスニングへの反動から、「たまにはでかくていい音を群集の中で聴きたい!」と欲求不満がそこで解消されるから、ということも理由になっているのでは。

−−アナログ回帰への流行もその一つでしょうか。

スージー鈴木:
 「レコードとCDを聴いて違いがわかるのか?」と言う人がいますけれど、デジタルの1(イチ)・0(ゼロ)とアナログの音質の違いはみんな直感的に感じると思います。レコード同様、昭和からあった文化であるライブに行ったりするのは、空気を震わせる爆音を体感したいからでしょう。

 私はたま〜にしかライブに行きませんけど、最近のライブは本当に音がいい。昔、東京ドームでローリング・ストーンズを観たときは音がもっこもこで渾然一体となって(笑)、何だかわからなかった。あれから比べるといい時代になりましたよ。

この5年間のヒット曲のキーワードは「フィジカル」

−−スージーさんは「フィジカルを感じる音楽が好き」だと言い、本書では「フィジカル」という言葉が多用されています。これは文字通り「肉体」という意味ですか。

スージー鈴木:
 はい。ぶっちゃけて言うと「生演奏」というぐらいの意味ですね。人間がドラムを叩いてピアノを叩いてギターとベースを弾くことが肉体的であると。

 「アナログがいい」「フィジカルがいい」と言うと、どうしてもオジサンくさくなって「ジジイがまた言ってるよ」って感じになってくるんですけど(笑)、Vaundyとかのサウンドが実にアナログでフィジカルで「こういう若者が出てくるのなら、生演奏がいいとか言ってもいいんじゃないか」と、最近押し出してます。

−−本書の2021〜2025年の5年間で感じる音楽の変化やおもしろいと感じるのはどんなことでしょうか。

スージー鈴木:
 前作『平成Jポップと令和歌謡』のポイントは「令和歌謡」であり、星野源や米津玄師、KING GNUというのがMVPクラスだったと思います。

 今回はそこにVaundyと藤井風が入ってきて、キーワードを挙げるとしたら「フィジカル」「アナログ」「生演奏」。ヒューマンな部分の才能が出てきて心地いいということが一番大きな変化かもしれません。

 コンピューターミュージックが普及していく1980年代ぐらいから「これからは鍛錬や練習はいらない。才能さえあれば誰でも曲が作れる」と言われてきました。それはある種事実であり、今はデスクトップで全部できるようになり、全く楽器ができない若者がYouTubeとかで作品を発表してのし上がっていくという形も珍しくありません。

 でも、これもある意味では一周回ったと思うんですけれども、Vaundyや藤井風のサウンドを聴いて「やっぱ生の演奏っていいな」と感じる人は確実に増えています。

 特に藤井風のピアノは非常に象徴的でまさに「Theフィジカル」。彼なら音響装置が貧弱なライブハウスにグランドピアノが一台あるだけでも、そこで最高のプレイをすると思うんですよね。

 彼のピアノは「うまい」じゃなくて「強い」。子どもの頃からピアノが好きで好きでしょうがなかった青年が、鍵盤に指を叩き付けるように演奏するスタイルから「令和のビリー・ジョエル」と呼んでいます。

 AIがどれだけ発達しても「藤井風の生のピアノにはかなわないんじゃないか」と確信できるのは、この5年間の大きな潮流の現れだと思いますね。

意外とオジサンも楽しめる令和のヒット曲

−−オジサンたちにアピールしたい令和のヒット曲の魅力を教えてください。

スージー鈴木:
 若い方々が作っているヒット曲は「オジサンが思っているほど若者限定の音楽じゃない」ということですかね。

 今の若い人は、昔の若者よりも昔の音楽に全然詳しい。サブスクリプションが生み出したいい方向での変化は、“耳年増”になること。

 CD化の波があった1980年代には、入手しにくい昔のレコードが一気に聴きやすくなり、それが奥田民生や小沢健二たちに影響を与えたのだろうと考えられますが、今の変化はもっと大きいでしょう。スマホに入力したら何でも聴けるわけですから。

 特にVaundyが顕著で、彼のインタビューからも耳年増な感じがするし、古い音楽が好きで、それを自分でやってみたいという強い欲求を感じますね。

 かつ、昔ほど音楽業界が栄えていないので、今ヒットチャートに乗っている藤井風、Vaundy、米津玄師とかは厳しい中を勝ち抜いてきた非常に腕っぷしの強いメンバー。そういうヤツらが作る音楽は若者の間だけの一瞬の流行じゃなくて、ずっと聴くのに耐えうるような厳選された音楽だから、聴いてもそんなにしんどくない(笑)。

 さらに言うと、昔に比べて若者の人口が少ないので、ミュージシャンの側も若者だけの内輪で盛り上がっても商売にならないから、可処分所得の強いオジサン・オバサンを狙っていこうという戦略もあるでしょうから、そんなに“閉じていない”。

 閉じている音楽に対しては無理して聴く必要はなく、「わかんねえよ!」と言ってもいいんです。極論すると「ミュージシャンよりもリスナーのほうが偉い」(笑)。「ビートルズにしようか、それともVaundyにしようか?」と、聴く音楽の選択権をこちらが持っているわけですから。

 大事なのは無理をしないこと。案外楽しめますよ。

インタビュー&文:金丸公貴

作品情報

タイトル:50代からの最新ヒット曲健康法 アラ還評論家のJポップ毎週チェック5年分
著者:スージー鈴木
発行元:彩流社
価格:2200円

スージー鈴木 プロフィール

音楽評論家、小説家、ラジオDJ。1966 年11 月26 日、大阪府東大阪市生まれ。

音楽評論家として、昭和歌謡から最新ヒット曲までを「プロ・リスナー」的に評論。著書、ウェブ等連載、テレビ・ラジオレギュラー出演多数。

著書…『吉田拓郎から始めるロックスター列伝』(共著、集英社インターナショナル)、『ライバルたちのJポップ史』(祥伝社)、『日本の新しい音楽 1975~』『沢田研二の音楽を聴く 1980-1985』(ともに日刊現代)、『日本ポップス史 1966- 2023』(NHK 出版)、『大人のブルーハーツ』(廣済堂出版)、『サザンオールスターズ 1978-1985』『桑田佳祐論』(いずれも新潮新書)、『平成J ポップと令和歌謡』『80年代音楽解体新書』『1979年の歌謡曲』(いずれも彩流社)、『チェッカーズの音楽とその時代』(ブックマン社)、『ザ・カセットテープ・ミュージックの本』(共著、リットーミュージック)、最新刊『僕らの紅白歌合戦60年史』(宝島社新書)など多数。