TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが語る、最後発のFM雑誌『FM STATION』にまつわる回想記
エアチェックしたカセットケースに入れる付録のレーベル
1981年からほぼ年間続いた『マイ・サウンド・グラフィティ』は『FMステーション』とのタイアップ企画だった。深夜3時からのベルト放送で、ナレーションをかぶせずフルコーラスでアルバム全曲をオンエアするプログラムで、放送前には紹介するアルバムを『FMステーション』誌上で告知し、エアチェックしたカセットケースに挿入するレーベルも切り抜くことができた。
ディスクジョッキーはウィリアム・ジャクソン。番組の後テーマはクインシー・ジョーンズの『愛のコリーダ(TheDude)』からイヴァン・リンスの『ベラス(valas)』が使われた。プロデューサーも、英語しか話せないウィリアム・ジャクソンをフォローするアナウンサーも大学の先輩だった。いまはヒット狙いのシングルばかりだが、音楽はアルバムトータルで鑑賞すべきとの哲学をボクはこの番組から教わった。
村上春樹さんとラジオの関係
先日、担当している『村上RADIO』の打ち合わせで村上春樹さんと話していたら、村上さんもエアチェック派だったと知った。“エレベータミュージック”といわれるインストルメンタルの特集企画の打ち合わせだった。
上京して早稲田大学に入り、『ジェットストリーム』をよく聴いていたという村上さんは主にジャズのライブ番組を録音していたという。「それらのカセットはまだとってあるんだ」と懐かしそうに言った。村上さんをはじめ、さまざまな人のエアチェック体験をいまだに聴く。
ボクは、カセットに録音されているのは音楽だけではないのだろうと思う。カセットには時代の匂いも、その時の思い出もパッケージされているはずだ。それにしても音楽は素敵だ。いつもそこにいて、リスナーをあの時代に戻してくれる。
筆者プロフィール
延江 浩(のぶえ ひろし)
TOKYO FM(エフエム東京)エグゼクティブプランナー。プロデューサーとして多くの番組制作に携わり、ギャラクシー賞などを受賞。作家としても活動し、小説現代新人賞を受賞している。
村上RADIO公式ホームページ:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/