進化する音楽ライブ―多様化する形態とその魅力好みやライフスタイルにフィットする楽しみ方

アーティストを身近に感じる“ホールツアー”と新たな出会いが生まれる “フェス”や“対バンライブ”

YOASOBIのホールツアー『YOASOBI HALL TOUR 2025 WANDARA』のポスター

 ダウンロード販売やストリーミング配信が主流となった現在、リスナーとしては聴きたい楽曲を手軽に購入できるようになった。配信やダウンロードが隆盛する一方で、CDの売上は激減した。アーティストが受け取るデジタル収益は、制作作業にかかる時間や費用を考えると十分とはいいがたいのが実情だという。そうした状況下で、あらためて注目されているのがライブ活動である。

 ライブは、チケット収入を軸に、グッズ販売やライブ配信、そして映画館でのライブ上映といった副次的収益が期待でき、アーティスト活動を支えてる重要な役割を担っている。より多くの公演を行いたい、より多くのファンに音楽を届けたいというアーティストたちの情熱は、ライブ会場に行って声援を送りたいというファンの熱量と響き合ってコンサートの完成度を高めていく。ところで、最近はライブ活動のスタイルが急速に多様化している。

 この多様化は、観客にとっても大きなメリットだ。ライブごとに異なる楽しみ方があり、それぞれのよさを体験できるのだ。そこで、いま注目されている6種類のライブ形態を紹介し、その魅力と楽しみ方を見ていこう。

 “ホールツアー”とは、アリーナ級のアーティストがあえて小さめの会場で行うライブツアーを指す。大規模なアリーナと異なり、ファンとアーティストの距離が近く、表情や息づかいまで感じられるような臨場感が楽しめる。アリーナツアーだと公演が行われない地域でもホールツアーは開催される点も、特徴のひとつである。たとえば、YOASOBIは『YOASOBI HALL TOUR 2025 WANDARA』を開催。7月の熊本から11月の沖縄まで全国14カ所で公演し、チケットはアリーナ公演より手ごろな8800円で販売された。これもうれしいポイントだ。

 “フェス”は1日〜数日間にわたって開催され、複数のアーティストが出演する大型イベント。知らないジャンルやアーティストに触れることができ、新しいお気に入りを見つける“冒険”的な楽しみ方もできる。またキャンプ、アート展示、キッチンカーなど音楽以外の要素も充実。音楽+αの体験を求める人にお勧めだ。最近は都市部だけでなく、地域の特性を活かした地方フェスも増えている。旅行とセットで楽しむのもいいだろう。

 2025年末には、大阪のFM802が主催する『FM802 ROCK FESTIVAL RADIO CRAZY 2025』が12月26日から29日まで開催予定。Creepy NutsやSUPER BEAVERなどの人気アーティストに加え、なとりやサバシスターといった新進気鋭のアーティストが登場する。

 2〜4組のアーティストが共演する“対バンライブ”は、現在最も増加している形態だ。出演者同士でライブ開催にかかるコストを分担できるうえ、他のファン層に音楽を届けるチャンスにもなる。観客にとっては複数のステージを一度に楽しめ、その会場だから実現したコラボレーションも見どころになる。ファンにとっては、“コスパ”の高いイベントといえる。もともと若手が中心になって開催されていたが、最近はMAN WITH A MISSIONやサンボマスターなど実力派の対バンも増加中。2026年4月には、緑黄色社会が「今、共演したいアーティスト」を招く『緑黄色大夜祭2026』を開催する。

“生ライブ配信”と“映画館でのライブ上映”ではリアルでは味わえない新体験がある

Mrs. GREEN APPLEの映画館上映作品
『MGA MAGICAL 10 YEARS ANNIVERSARY LIVE ~FJORD~
ON SCREEN』のポスター
©︎2025 UNIVERSAL MUSIC LLC

 “生ライブ配信”は、遠方開催や高額チケット、抽選落選といった障壁を乗り越え、リアルタイムでライブを楽しめるのが魅力。会場に設置されたPAの迫力は味わえないが、バックステージの様子やアップ映像、凝ったカメラワークなど、配信ならではの演出も楽しむことができる。2025年にはサザンオールスターズ、藤井風、Mrs. GREEN APPLEなどが続々と生配信を実施している。

 注目度を急速に高めているライブ形態が、“映画館でのライブ上映”である。かつて主流だったライブ当日のステージの様子を生中継する「ライブビューイング」に加え、過去に開催された公演を高音質・高画質に編集した作品が多く上映されている。映画館ならではの大スクリーンと高性能な音響設備で楽しむライブは、自宅では味わえない没入感を提供してくれる。イヤホンやヘッドホンで聞くライブコンサートとは一線を画す迫力が楽しめる。11月28日からMrs. GREEN APPLEの最新ライブ映像が全国の劇場で公開され、大ヒットとなっている。

 王道の“単独ライブ”も大いに進化している。最近はリハーサル見学、バックステージツアー、限定グッズ付きチケットなど、魅力的な特典を加えたプレミアムチケットが用意される場合が多い。プレミアムサービスが加わる分だけチケット料金はアップするが、参加者限定で提供されるスペシャルな時間を体験してみてはいかがだろうか。King Gnu、Vaundy、SEKAI NO OWARI、BABYMETALなどが、こうした特別チケットを導入している。

 音楽ライブは今、単なる“音楽を聴く場”ではなく、多様な楽しみ方を提供する総合エンターテインメントへと進化している。好みのライブを車内で視聴するのに最もふさわしいオーディオやディスプレイは何か。ドライブ時の休憩タイムを盛り上げる“ライブな車内音響”について考えてみませんか。

※本記事は雑誌『CAR and DRIVER』(2025年12月号)の連載記事「クルマと音楽」で掲載されました。

CAR and DRIVER 2025年12月号:https://store.caranddriver.co.jp/products/car-and-driver-202512