ウィングスの秘蔵トークが続出!カメラマン浅沼ワタルを迎えた『ポール・マッカートニー&ウイングスの軌跡』発売記念トークイベント

ウィングスを撮り続けた浅沼ワタルならではの濃厚トークショー

矢口清治 (左) 浅沼ワタル(中) 吉田聡志(右)

 2023年10月15日『WINGS OVER THE PLANET ポール・マッカートニー&ウイングスの軌跡』出版記念トークイベントが東京・渋谷CLUB ROSSOにて行われた。トーク・ゲストにフォトグラファー浅沼ワタルを迎え、MUSIC LIFE CLUB吉田聡志を交え、ディスク・ジョッキー矢口清治の司会で進行された。その模様が公開された。秘蔵トーク続出のトークショーをお楽しみあれ。

**浅沼ワタルは1970年代初頭よりロンドンを拠点にフォトグラファーとして活動しており、クイーン、レッド・ツェッペリン、エリック・クラプトン、ポリス、ピンク・フロイドなど名だたるミュージシャンを撮影。今回の主役であるウイングスも何度も撮影している。

リンダはポールのことを“うちの旦那”と呼ぶ

矢口清治(以下矢口):この『WINGS OVER THE PLANET ポール・マッカートニー&ウイングスの軌跡』には浅沼さんと長谷部宏さん(“65年,初の日本人ビートルズ取材”でお馴染みのフォトグラファー)の写真がバッチリ掲載されている上に、“軌跡”というだけあってウイングスのライヴ、全公演の日程やセットリストまで克明に掲載されてるんですね。
吉田聡志(以下吉田):僕以上にウイングス・オタクのライターさんが何人もいらっしゃって渾身の作業をしていただきました。
矢口:今、パッとめくったページが日本盤シングルのジャケット満載──、当時このシングル盤を買って聴き倒してました。
吉田:『全米TOP40』でいち早く新曲を聴いて、レコード屋さんに行ってシングルを買って。
矢口:そのワクワク感が大事──、そういう気持ちをもう一度心の中に蘇らせてくれる一冊ですね。では、浅沼さん、お待たせしました、ここにいる誰よりも直接ポール・マッカートニーやウイングスのメンバーと会っていた浅沼さんに、色々とお聞きしたいことがあるんですが。
浅沼ワタル(以下浅沼):(笑)どうぞ。
矢口:まず、子供っぽい質問ですが(笑)、メンバーの印象はいかがでしたか?
浅沼:僕はリンダ・マッカートニーと距離が近かったんですよ、彼女も写真家だからか分からないけど、立ち話をしたり、バックステージやパーティに呼ばれたりすることが多かった。そこで、“ちょっと待ってて、うちの旦那呼んでくるから”って。ポールのことを旦那って呼ぶんです(笑)。
矢口:じゃあ、まずリンダから入って?
浅沼:いや、ポールからなんですけど、ポールは色んなメディアに対応したりで忙しすぎるから、リンダと会話できる時間が多かったんです。東京ドームの最後の公演でも、僕は日本でのオフィシャル・カメラマンで付いたんですけど、ファンのための撮影のときもリンダが声をかけてくれて、“ちょっと待ってて、旦那呼んでくるから”って(笑)。
矢口:英語でなんて言うんですか?
浅沼:I call husband.
吉田:浅沼さんは、東京ドームでポールと関係者とのプライベートな集合写真も撮ったんですよね。

表紙写真は浅沼撮影の75年ロンドン公演

矢口:そんな浅沼さんはどこでポールとの距離が縮まったんですか?
浅沼:最初に撮ったのが1975年のバーミンガム公演。終わった後に合同の記者会見があって、その後ポールとは立ち話で顔見知りになった。
矢口:そこで信頼を得て、1976年10月20日ロンドン・エンパイア・プール公演でも撮影されていて、これもこの本に表紙になっています。
吉田:WINGS OVER AMERICA TOURの前後。
浅沼:当時、僕も「WINGS OVER AMERICA TOUR」のオフィシャル・カメラマンにノミネートされていて、最終的にはポールが選考する──って言われてた。結局イギリス人カメラマンに決まったんだけど…。
吉田:惜しかった、決まっていたら大変なことになっていて。
浅沼:僕、ここにはいないですよ(笑)。付け加えると、僕はポールが主催したパーティで入場するお客さんを撮影したこともあって、ザ・フーのキース・ムーン(Dr.)も婚約者と一緒に来ていたのを撮ったんですけど、それが彼の最後の写真になったんです。翌日起きたらラジオのニュースが、“キース・ムーンが亡くなった”と。
矢口:映画のワンシーンみたいな感じですね。僕はライヴの現場のこととか分かっていないので、初心者レベルの質問ですけれど、こういった超大物クラスのバンドだと、苦労した、大変だった…ということはありますか?
浅沼:ウイングス、ポール関連では全くないです。広報の人が全部キチンと仕切るので、それに乗っていけばいいだけで。
吉田:作られた状況を撮影する──と。
矢口:現場で何か起きて、予定が急に変更するといったことは?
浅沼:なかったです。
矢口:すごいですね。
吉田:ウイングスはプロのバンド、プロ集団なんですよ。

日本風挨拶を拘置所で教わったポール

浅沼:日本では80年に入国できなかったですよね、(空港で逮捕、拘留強制送還)、その後イギリスで『BACK TO THE EGG TOUR』が始まって、僕はフォトピットでカメラを構えてたら、ステージの幕が上がって出てきたポールが僕に向かって “オッス!!”って親指を立てて合図したんです。後で聞いたら、“拘置所で日本人に教わった”って(笑)。
矢口:それ以降、来日のステージでは“オッス!!”って言ってますよね。
吉田:どこで覚えたんだろう?って思ってました。日本では観られなかった『BACK TO THE EGG TOUR』もこの本にしっかり載ってます。
矢口:これで観られなかった気持ちも少しは落ち着きますし、改めてウイングス時代に対する気持ちを掻き立ててくれますね。私がリアルタイムでラジオでウイングスを聴いたのは『マイ・ラヴ』かな。そこから彼らのヒット曲をどんどん紹介してくれるラジオに魅入られて、結果的に今やっているような仕事に就いたんですけど、ヒット・チャートを賑わしたあの当時のウイングスの破竹の快進撃はすごかった。『レッド・ローズ・スピードウェイ』に入っている『マイ・ラヴ』以降、『バンド・オン・ザ・ラン』『あの娘におせっかい』『心のラヴ・ソング』『しあわせの予感』まで出すアルバムから必ず全米ナンバーワン・ヒットが出てるんです。で、今回は浅沼さんに来ていただいて貴重なお話を伺っているんですが、<これは差し上げられないんですが>というお宝をお持ちいただいてます。

秘蔵の浅沼コレクションを公開

フォトパス

浅沼:フォト・パスは大きいバンドは割と凝ったパスを作るんです、ツアー毎にデザインも変えて。『BACK TO THE EGG』の箱は記者用のプレスキットや目玉焼き型のパーティ・インビテーション・カードが入ってました。

『BACK TO THE EGG』の箱
目玉焼き型のパーティ・インビテーション・カード

吉田:このウイングスのロゴを胸につけたペンギンたちのポスターは僕も初めて見るもので、これは何だろう?とさっき浅沼さんとも話してました。
矢口:この時代のポールは何かペンギンに関係したことってありましたっけ?
吉田:これもボックスに入っていたみたいですね。

ペンギンたちのポスター

矢口:ご存知の方がいらっしゃいましたらMUSIC LIFE CLUBまで(笑)。
吉田:そして最後はウイングスの3本柱のメンバーの直筆サイン入り『VENUS AND MARS』、3人が揃っているのは泣けてきますよ。今、デニー・レーンの体調が芳しくないので心配ですけど、これは超貴重な物です。

ポール・マッカートニー、リンダ・マッカートニー、デニー・レーンのサインの入った『VENUS AND MARS』

矢口:こういった物を見ながら浅沼さんのお話を伺える、そしてこの後のトリビュート・ショウで、ウイングスのヒット曲の数々を愛して止まない方々と一緒に聴けるといういい時間を持てたのは、この『WINGS OVER THE PLANET ポール・マッカートニー&ウイングスの軌跡』がそのきっかけを作ってくれたからだと思います。吉田さんが思う、この本を持っていたい──という所はどこでしょう。

ウイングスの全盛期、パワー全開のときの写真がまとまった一冊

吉田:ファン目線も入って冷静に分析できないんですけど、とにかくウイングスの全盛期、パワー全開のときの写真が今になって一冊にまとまったんです。ご存知の通り長谷部さんはオーストラリア公演を撮ってるんです、オフでポールがコアラを抱いている、あのときの写真とか。でもイギリスの写真がなかったので、どうしてもストーリーが作れなかったのが、今回浅沼さんの写真が加わってウイングス全盛期の物語が作れた。そしてウイングス・マニアの方々が作り上げてくださった完璧なディスコグラフィ、愛に満ちたレビュー、皆んなウイングスが大好きなんですよ。だから読んでいて、ファンのためのウイングスの本だな、ファンの方は読んでいただきたいなと心から思いました。
矢口:浅沼さんも本日はありがとうございました。では最後にお二人に質問をさせていただきます、吉田さんにとってポール・マッカートニー&ウイングスとは何でしょうか?
吉田:中学校のクラブ活動みたいなもの。勉強は嫌いだったけどクラスの中でウイングス好きな人といつもウイングスの話をしてましたね。
矢口:浅沼さんはもうプロの写真家として接せられていらっしゃったから、どうでしょう、浅沼さんにとってポール・マッカートニー&ウイングスとは?
浅沼:体が震えるくらいの人物で、まさか写真が撮れるとは思ってなかったんです。フォト・パスもイギリスのメディア優先で何枚も出ないから、入るのは大変で当時は夢でした。その夢を叶えたのがこの本です。あ、最後に一つ。ポールとパーティで会うと、“お前、うちに遊びに来いよ”って言うんですけど、住所もくれないし、連絡先も何もくれない(笑)、マネージャーに聞いたら、ダメって言うに決まってるじゃないですか。それを毎回言うんですよ“うちに遊びに来い”って。実は歩いて行ける距離だったんですけどね。
矢口:行けたらよかったですけど、ま、それも一つの夢として(笑)。では、そろそろお時間となりました。ありがとうございました。
浅沼:ありがとうございました。
吉田:ありがとうございました。

※ウイングスのペンギンのポスターに関して、詳しい情報をお持ちの方は、お手数ですが、MUSIC LIFE CLUB お問合せフォームにてhttps://www.musiclifeclub.com/contact/
にてご一報ください。

書籍情報

タイトル:WINGS OVER THE PLANET ポール・マッカートニー&ウイングスの軌跡
サイズ・ページ数:A4判 272ページ
価格:3520円
内容:
英米のアルバム・チャートで1位を記録した代表作『バンド・オン・ザ・ラン』のリリースから、今年で50周年を迎えるポール・マッカートニー&ウイングス。’70年代のロンドン、バーミンガム、リヴァプール、パース、アデレード、シドニー、ブリスベン、メルボルン、ニューヨークの各都市でバンドが活躍する様子を『MUSIC LIFE』が撮影した、総数約4,000点から選りすぐりの“秘蔵ピンナップ集(120頁超)”を筆頭に、“全アルバム&全シングル詳解”“レコード&メモラビリア・コレクション”“ポールの愛機変遷”“復刻インタビュー集”他の充実したコンテンツで、ウイングス10年の活動を集大成します。
ウイングスをこよなく愛し続けるファンと、ウイングス世代のビートルズ愛好家に捧げます。
詳細サイト:https://www.shinko-music.co.jp/item/pid0653874/