世界を席巻するラップ、日本では独自の進化を遂げている

J-RAPはノレルことはもちろんだが、歌えることも大きなポイント

 2020年代の世界の音楽チャートを見ると、一つの大きな特徴がある。それは、ラップが圧倒的な存在感を放っていることである。

 アメリカのBillboard Hot 100では、ケンドリック・ラマー、ドレイク、トラヴィス・スコット、フューチャーらがヒットチャートの上位を争う。フランスやドイツ、イギリスなどでも、各国のラッパーがチャートの中心を担っている。いま世界でみれば、ラップはポップミュージックを代表するジャンルとなっている。

 そもそもラップとは、メロディーを歌うよりも、リズムに合わせて言葉を発する音楽表現である。韻やリズム、声の強弱、ビートとの一体感、そして「フロウ」と呼ばれる独特の歌い回しが大きな魅力となる。

 しかし、日本の音楽チャートを見ると、その景色は少し異なる。Billboard JAPANの上位には、Mrs. GREEN APPLE、YOASOBI、Vaundy、Adoなど、メロディーを重視したJ-POPが並ぶ。日本でもラップは1990年代から人気ジャンルとなっているが、海外のようにラッパーがチャートの中心を占めているとまでは言い難い。なぜ日本では、このような違いが生まれるのだろうか。その背景には、日本でラップが受け止められてきた歴史と、国内外における音楽の楽しみ方の違いがある。

日本では1980年代から徐々に広まったラップ

 ヒップホップは、ラップ、DJ、ダンス、グラフィティなどを複合した文化として、1970年代のニューヨーク、ブロンクス区のサウス・ブロンクス誕生した。そして1980年代、日本ではラップは「ヒップホップ」カルチャーの一つとして広まったが、「ストリートの音楽」「不良っぽい音楽」といったイメージで受け止められることも多く、特定のファンから支持されるジャンルという側面が強かった。

 国内外の「音楽の楽しみ方」の違いをみてみると、海外、特にアメリカやヨーロッパでは、音楽はクラブやフェス、ホームパーティー、ドライブなど、さまざまな場面で主にBGMとして楽しまれている。もちろん海外にも歌う文化がなかったわけではないのだが、音楽に合わせて踊り、身体を揺らし、ビートやグルーヴを共有することを楽しむスタイルが広く根付いている。低音やビート、リズム、グルーヴを身体で感じるラップは、こうした楽しみ方と相性がよく、現在の人気にもつながっている。

  一方、日本には「音楽は歌うもの」としての文化が色濃い。その代表がカラオケだ。古くは戦後から日本では、ヒット曲は「聴くもの」であると同時に「歌うもの」だった。そしていまも、友人や家族とカラオケに行き、好きな曲を自分で歌い、サビを一緒に口ずさむなど、「自分で歌う」ことでも楽しまれている。J-POPがメロディーを重視する音楽として発展してきた背景には、こうした文化も影響しているのだろう。また、いまでは「カラオケ」という言葉自体が世界中で使われていることが、日本独自の文化観を示しているといえる。

J-POPの中でもラップが溶け込むのが当たり前になった

 こうした土壌のなかで、日本のラップは独自の進化を遂げた。その象徴の一つがCreepy Nutsだ。MCバトルで数々の実績を持つ実力派ラッパー・R-指定は、日本語ならではの韻や言葉遊び、巧みなリリックは大きな魅力となっている。しかし、彼らが一般層にまで支持を広げた理由は、ラップの技術だけではない。2019年に世界一の称号を得たDJ松永が生み出すキャッチーなビートに加え、誰もが口ずさめるサビやJ-POP的なメロディーを巧みに取り入れ、ラップそのものを前面に押し出しながらも、幅広いリスナーが楽しめるポップミュージックとして成立させたのである。

 また近年のJ-POPでは、ラップは一つのジャンルという枠を超え、多くのアーティストが楽曲の中へ自然に取り入れる表現方法となっている。Vaundyや藤井風、Number_iをはじめ、多くのアーティストがラップのリズムやビート感を取り入れながら、メロディーを重視したJ-POPを生み出している。Mrs. GREEN APPLEやYOASOBIなども、楽曲の一部にラップ的なフロウを取り入れることが珍しくなくなった。

 では、日本でも海外のようにラップが音楽シーンを席巻する日は来るのだろうか。答えは「半分イエスで、半分ノー」といえる。ラップを取り入れた楽曲は、今後さらに増え、日本の音楽シーンにおける存在感も一層高まっていくだろう。しかし、日本にはメロディーを愛し、歌うことを楽しむ文化が深く根付いている。そのため、海外と同様の音楽シーンになる可能性は高くないだろう。

 そもそも日本語の楽曲は英語の楽曲に比べ、言語としての音の構造の違いによって、リズムの作り方が異なってくる。そのため日本のラップでは、言葉の響きや韻だけでなく、日本語特有の「間」やメロディーを生かした独自のフロウとして発展してきた。

 日本におけるラップは、海外のスタイルをそのまま取り入れるだけではなく、J-POPのメロディーや歌う文化とも融合しながら、日本独自の音楽表現のひとつとしてさらなる進化を遂げていくだろう。

作品情報

タイトル:Creepy Nuts「Running Wheel」
配信リリース中
配信サイト:https://creepynuts.lnk.to/RunningWheel