2023年を盛大に締めくくった【第74回NHK紅白歌合戦】を"FMステーション世代"の視点での見どころを振り返ってみた
え?面白くなかった?!FMステーション世代視点でみるNHK紅白レビュー
2023年12月31日に放送された『第74回NHK紅白歌合戦』(以下、NHK紅白)、平均世帯視聴率が1部では29.0%、2部は31.9%。2部制になってから視聴率が一番低い結果となった。年明けに発表されたこの平均視聴率の低さにつられてか「面白くなかった」「目玉がなかった」という声が多いが、皆さんはどうだっただろうか。
めぐりめぐってFMステーション編集部員となっている本記事の筆者・永島は現在59歳。雑誌『FM STATION』が創刊された1981年は16歳、休刊になった1998年は34歳だった。そんな筆者にとっては、今回のNHK紅白は、端的に言えば「面白かった」し、「結構充実した内容だった」と感じた。年明けてから同世代6人と飲みながらこの件について語り合ったが、彼らからも同様の言葉を聞けたのだった。
そこで本記事では、雑誌『FM STATION』が刊行されていた1981年〜1998年の間、特に1980年代を10代・20代でFM情報誌にどっぷりはまっていた方々を“FMステーション世代”(現在40代後半~60代前半の方々)称し、現在59歳であるFMステーション世代ど真ん中の筆者からみたNHK紅白をレビューしたいと思う。
第1部は80年代に流行った曲や昭和ティストを感じる楽曲が続々登場する展開!
1曲目『オトナブルー』から昭和歌謡感あふれる曲調に気持ちが高揚する
まずは紅組トップの新しい学校のリーダーズ。振り付けが斬新と話題になっているが、歌唱した『オトナブルー』は曲調がまさに昭和歌謡。歌いだしのAメロはテンポは違うが、山本リンダの『どうにも止まらない』によく似ていると思うのは筆者だけだろうか。全体の曲の流れも昭和歌謡的な展開で、覚えやすく、終わった後に頭の中で曲を反芻してしまった。
今もカラオケではみんなで『めッ!』のキメポーズを。鈴木雅之が『め組のひと』を歌唱
次は、3人目に登場の鈴木雅之『め組のひと』。1983年に発売された鈴木雅之率いるラッツ&スターの大ヒット曲だ。当時筆者は19歳。まだカラオケボックスは普及しておらず、カラオケを楽しむのは、飲み屋という時代。パブでアルバイトしていた筆者は、お客の歌唱を盛り上げるために『めッ!』のキメポーズを1日に何回もやったものだった。中学3年生の息子と一緒に観たのだが、彼によるとTikTokでこの振り付けが流行っているとのことだ。
80年代シティ・ポップ感があるキタニタツヤの『春のすみか』が心地よい
8人目に登場したキタニタツヤの『青のすみか』。好メロディの曲で、80年代シティ・ポップ感があり、20代に山下達郎などのシティ・ポップにはまった筆者としてはとても心地よい。気になってネットで『青のすみか シティ・ポップ』と検索してみると、シティ・ポップ調に歌っている動画がいくつもアップされていた。
JUJUがテレサ・テンの昭和の名曲『時の流れに身をまかせ』をカバー
14人目に登場したJUJUがカバーして歌った『時の流れに身をまかせ』はズバリ昭和歌謡。テレサ・テンが1986年に発売した曲で、その年の全日本有線放送大賞を獲得した曲だ。当時は、レコード大賞だけでなく、アダルティな曲に名誉を与えるこの賞も行われており、年末に発表され誰が大賞を取るか話題なったものだった。今でも同世代の女性のカラオケでの定番曲で、間違えず歌えるほど歌詞を覚えている。歌唱力抜群のJUJUの歌声に曲の頭から最後まで聞き入ってしまった。
68歳とは思えない郷ひろみの『2億4千万の瞳』でのキレキレのパフォーマンスに感動
19人目に登場した郷ひろみの『2億4千万の瞳』。1984年に発売された、ハイテンポな曲調の郷ひろみのヒット曲だ。FMステーション世代ならカラオケでこの曲がかかったら『ジャパン!』の部分は必ず一緒に歌ってしまうに違いない。68歳とは思えない、迫力ある歌声、変わらぬルックス、切れのあるダンスに、自分もまだまだ頑張らねばと思ってしまった。
第2部にはいると伊藤蘭、薬師丸ひろ子、寺尾聡、さだまさしとFMステーション世代必聴のメンバーがズラリ!
10-FEETがロックバンドならでは迫力あるステージを披露。チバユウスケへの哀悼にグッとくる
29番目に登場した10-FEET。演奏したのは『第ゼロ感』。1989年に始まったバンドオーディション番組『三宅裕司のいかすバンド天国』(通称イカ天)を楽しんだ世代としては、ロックバンドの出演はとても楽しめた。バンドならではの迫力あるサウンドとアクションに心躍る。さらに曲の間奏中にボーカルのTAKUMAが叫んだ「The Birthday チバユウスケ」の言葉に、2023年に亡くなった元THEE MICHELLE GUN ELEPHANT でThe Birthdayのボーカル・チバユウスケ(享年55歳。FMステーション世代)を改めて思い出しグッときてしまった。
英ロックバンド・クイーンが70年代後半の名曲をアダム・ランバートのボーカルで熱演
第2部の2本目の特別企画で登場したのが英国のロックバンド・クイーン+アダム・ランバート。演奏したのは『ドント・ストップ・ミー・ナウ』、1978年に発売されたヒット曲だ。FMステーション世代が青春を送った80年代は、洋楽が全盛だった時代。雑誌やラジオ、テレビに頻繁に洋楽アーティストが登場し、クイーンも大人気だった。ルックスの良さもあって、特に女性人気が高く、女性マンガにメンバーそっくりな登場人物がよく登場していた。演奏には亡くなったボーカルのフレディ・マーキュリーと引退してしまったベースのジョン・ディーコンはいなかったが、70代半ばになってもギターのブライアン・メイとドラムのロジャー・ティラーの演奏に衰えは見えず、唯一無二のクィーンサウンドを提供してくれた。ネットでも「クイーンが熱すぎる」「大満足」「予想以上に素晴らしかった」などといった絶賛の声が多かった。筆者ももちろん大満足の演奏だった。
キャンディーズのヒット曲をランちゃんがメドレーで歌唱。往年ファンからの声援が飛び交う
36番目に登場したのが元キャンディーズの伊藤蘭。キャンディーズは1978年に解散した大人気アイドルだ。当時、筆者は14歳の中学2年生で、彼女たちの大ファンだった。初めて買ったレコードは彼女たちの『年下の男の子』で、当時は男ながら彼女たちの曲の振り付けはほぼ全曲覚え、今でも踊れます(多分)。歌った曲は、『年下の男の子』から始まり、『ハートのエースが出てこない』『春一番』。特設会場には当時のファン(ネット記事のよるとその多くが当時、熱狂度の高さで知られた全国キャンディーズ連盟の元メンバー)つめかけ、「ランちゃん」のコールと紙テープが飛び交った。余談だが、以前、彼女たちと『みごろ!たべごろ!笑いごろ!』で共演した伊東四朗を取材したとき、伊藤蘭のスター性とコメディ能力を絶賛していた 。
これぞ平成レトロ!ポケットビスケッツ&ブラックビスケッツが25年ぶりにNHK紅白でパフォーマンス
引き続き登場したのが、『テレビ放送70年特別企画』のポケットビスケッツ&ブラックビスケッツ。25年ぶりのNHK紅白出場となる。1996年から始まったウッチャンナンチャンのバラエティ番組『ウッチャンナンチャンのウリナリ!!』から登場したユニットだ。高視聴率を上げた番組からのユニットだけあってヒット曲を連発。今回はポケットビスケッツが『YELLOW YELLOW HAPPY』をブラックビスケッツは『Timing』を披露した。ウッチャンナンチャンは筆者と同じ59歳。同級生の明るく元気なパフォーマンスに多くの力をもらった。演奏後、司会の有吉弘行と彼の低迷期を支えたウッチャンと交わされた「お疲れ様です。めちゃくちゃよかったです。僕緊張しています」(有吉)「まだまだステージは続くぞ。これからもっと感動するから、楽しんで紅白を」(内村)のやり取りは師弟愛を感じ微笑ましく心温まるものだった。
薬師丸ひろ子が歌ったのは同世代のカラオケの定番曲『セーラー服と機関銃』
ここからはFMステーション世代の曲が続いた。次に登場したのが薬師丸ひろ子。彼女もウッチャンナンチャン同様に筆者と同じ59歳の同級生。当時、雑誌『FM STATION』にも頻繁に登場しており、筆者もカセットケース用に誌面の彼女の写真を切り取ったものだった。歌ったのは大ヒットとなり、同世代のカラオケで必ず誰かが歌う『セーラー服と機関銃』。1981年の角川映画『セーラー服と機関銃』の主題歌だ。今も変わらず美しい姿と語りかけるような歌唱に、高校生時代の気持ちに戻り、聴き惚れてしまった。
FMステーション世代にはおなじみの『ベストテン』的演出で寺尾聡が紹介され『ルビーの指環』を歌唱
次は今回の出場が大きなニュースとなった寺尾聡だ。歌ったのはもちろん当時の歌番組『ベストテン』で12週連続1位という大記録を打ち出した『ルビーの指環』。歌唱前には、ゲスト出演となった『ベストテン』の司会者だった黒柳徹子と当時の出演時のエピソードを語り合い、黒柳徹子の『ベストテン』風の紹介で曲がスタートした。当時と変わらず、渋い歌声がなんともかっこいい。ふとバックミュージシャンを見ると年配の方が多い。画面に表示された演奏ミュージシャン名を見てびっくりした。キーボードは『ルビーの指環』をはじめ80年代に多くの名曲を編曲してきた井上艦、さらにギターは『ルビーの指環』のレコーディングメンバーだった今剛、ベースは高水健司、ドラムは山木英夫。いずれも70年代から日本の音楽シーンで大活躍し、多くのシティ・ポップ系のアルバムに参加してきた凄腕ベテランミュージシャンだ。寺尾聡をはじめこのメンバーの共演が聴けるという至福の時間を楽しませてもらった。
さだまさしが故・谷村新司に捧げるように歌う『秋桜』に深く聴き入る
企画コーナーが終わっても、FMステーション世代を楽しませるアーティストが続く。40番目に登場したのは、さだまさしだ。歌ったのは『秋桜』。1977年に山口百恵に提供した曲で、さだまさし自身も1978年にセルフカバーをし、NHK紅白での歌唱はこれで3回目となる。両国国技館からの中継だ。今回は歌う前に2023年に亡くなった仲間たちに向けて「23年は僕の大切な仲間たちを失ったんですよ。残った人間は彼らの分まで頑張っていかなきゃならない。そんな思いで歌います。谷村さん、聞いてくれてっかなぁ」と語り、切々と歌い上げた。2023年は、高橋幸宏、鮎川誠、坂本龍一、谷村新司、もんたよしのり、KAN…FMステーション世代が愛聴した多くのミュージシャンが亡くなってしまった。
石川さゆりが、演歌が人気だった時代の名曲『津軽海峡・冬景色』を歌い上げる
41番目は、石川さゆりの登場だ。現在と違い、演歌が多くの歌番組で流れ、子供でもその歌詞を覚え歌えていた昭和の時代。そんな昭和の1977年に発売されたのが、今回彼女が歌った『津軽海峡・冬景色』。歌謡界でトップクラスといわれる石川さゆりの歌声と歌詞は冬の季節に染み入る。年末のNHK紅白でぜひとも聞きたいと思っていた曲だ。横で一緒に観ていた中学3年生の息子は画面に表示される「上野発の夜行列車」「ひとり連絡船に乗り」をはじめ歌詞で描かれる世界にまったくピンときていなかったけど。
藤井フミヤが歌った『TRUE LOVE』は、20代に熱中した90年代トレンディドラマ主題歌の代表曲
42番目に登場したのが藤井フミヤ。歌った曲は『TRUE LOVE』。1993年にフジテレビの月9トレンディドラマ『あすなろ白書』の主題歌になった曲だ。FMステーション世代の多くが20代を過ごした1990年代はトレンディドラマが全盛期だった時代。この曲を聴くと恋愛に夢中だったあの時代を思い出すという人は少なくないのでは。筆者が観ててうれしかったのが、藤井フミヤの格好だ。50年代テイストのウエスタン調ジャケットにリボンタイ、さらに髪型はサイドバックのリーゼント。チェッカーズがアマチュアだった久留米時代にしていたフィフティーズスタイルだ。同時期に福岡の高校生だった筆者は、福岡ローカルのアマチュアバンドTV番組『エルモーションラグ』に出ていたデビュー前のチェッカーズの姿を思い出し、当時を懐かしむことができた。
大トリはMISIA、バック演奏の男闘呼組(FMステーション世代)とともに締めくくる
そして最後は大トリとして、紅組ラストに登場したのが、MISIA。『愛をありがとう』『傷だらけの王者』『アイノカタチ』を披露し、圧倒的な歌唱で紅白を締めくくった。歌はもちろんよかったのだが、筆者としては男闘呼組との共演が印象的だった。MISIAの後ろで熱く盛り上げる54歳の高橋和也をはじめ、彼らはFMステーション世代。そのガッツあふれるパフォーマンスは同世代として、元気をもらえるものだった。そして紅組優勝で2023年のNHK紅白歌合戦は終了した。
懐かしい曲が多く十分に楽しめたが、もっと往年のNHK紅白らしさも欲しかった
今年の年末には各テレビ局が多くの歌手が登場するスペシャル歌番組を放送し、幾人もの歌手の出演がかぶっていたため、新鮮味という意味では弱かったが、トップにも記したが、40代後半から60代前半のFMステーション世代が、若く、音楽への思いが強かった時代の曲がたくさん楽しめ、充実したNHK紅白だったといえるのではないだろうか。
しかし欲を言えば、いわゆる往年のNHK紅白的な演出も観たかった。かつてNHK紅白は、趣向を凝らした歌手の衣装、お笑い芸人らによる応援合戦、バックで踊ったりといった出演者の共演など紅白ならではの特別感をみせてくれていた。今回は、朝ドラ出演中の趣里と伊藤蘭の親子共演の噂がたっていたのだが実現されなかった。今後のNHK紅白には、年末のNHKならではの演出が盛り込まれた、全部盛りともいえるような、もっともっと見応えのある演出を期待してしまうのは贅沢すぎるだろうか。
文/永島辰彦(FMステーション編集部)
番組情報
タイトル:74回NHK紅白歌合戦
放送日時:2023年12月31日 19時20分~23時45分
番組公式HP:https://www.nhk.or.jp/kouhaku/